岡崎市美術博物館の収蔵品を紹介します!

【収蔵品紹介06】《天光散》(てんこうさん) 安田侃 1992 大理石

  • 《天光散》(てんこうさん) 安田侃 1992 大理石

    《天光散》(てんこうさん) 安田侃 1992 大理石

  • 《天光散》(てんこうさん) 安田侃 1992 大理石

    《天光散》(てんこうさん) 安田侃 1992 大理石

当館の屋外には野外彫刻作品が点在しています。今回はその中から美術館と他の施設をつなぐ「風の道」の西側斜面に起立する安田侃(やすだかん/1945-)の《天光散》をご紹介します。
作者の安田侃は北海道美唄市に生まれ、現在はイタリアを拠点にして、大理石やブロンズによる彫刻を中心に制作し、世界的に活躍しています。
《天光散》は全長4メートル、13トンという質量を保持した大理石を材料としていますが、見たところ、堅固な石彫という質感はありません。乳白色で丸みを帯びた滑らかなかたちは、柔らかさや動きを感じさせます。その温柔な巨体は周囲の木々や草花と同じように、地面からにょきにょきと生えて天へと伸びているようにも見えます。
このような大きな作品をどのようにして作ったのでしょう。作家の発想や造形力にはたびたび驚かされますが、周囲の自然と調和した不思議なフォルムの成形は、同じく自然の一部である人間だからこそ成し得たのかもしれません。

当館の収蔵品は館内の展示に限らず、屋外でいつでもお楽しみいただける環境となっています。長い自粛期間が明けて、日々の暮らしが慎重にも緩やかに戻りつつあると思いますので、朝夕のお散歩に、週末のピクニックに、軽い運動を兼ねて自然と美を体感しに、ぜひ美術博物館をご活用ください。

 

【収蔵品紹介05】時の記念日チラシ

6月10日は時の記念日。日本で初めて「時計」という装置が使われた日を記念し、大正9年(1920)に制定された記念日です。今年は100周年にあたります。
当時の日本は時間にルーズで、生活改善同盟会が日本国民に「時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう」と呼びかけ、時間の大切さを尊重する意識を広めるために設けました。
『日本書紀』天智天皇十年四月辛卯条(現在の暦で671年6月10日)に記されている「漏尅(ろうこく)」という水時計が日本初の時計装置といわれ、これが鐘を打った日が6月10日であることから、この日に定められたとされます。

今年になって、私たちが当たり前に過ごしてきた普通の生活は、新型コロナウイルスによって大きく様変わりさせられました。これまでとくに意識することなどなかった日常生活の大切さを実感した人も多いのではないでしょうか。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、感染防止のための制限付き、自粛を強いられる新しい生活様式が求められています。時間との新しい接し方を探りながら、コロナ禍を乗り越えていきましょう。

時の記念日チラシ
昭和5年(1930)・26.8×19.5cm

【収蔵品紹介04】橋本関雪≪帰去来図・武陵桃源図≫ 昭和時代

  • 橋本関雪≪帰去来図・武陵桃源図≫ 昭和時代(岡崎市美術博物館蔵)

    橋本関雪≪帰去来図・武陵桃源図≫ 昭和時代(岡崎市美術博物館蔵)

そびえ立つ緑青の岩山の麓、可憐な桃の花が咲き乱れる道で、漁師と村人が挨拶を交わしています。
本図は東晋を代表する詩人陶淵明(とうえんめい)の「桃花源記」を画題とした屏風で、俗世間を離れた東洋の理想郷「桃源郷(とうげんきょう)」が描かれています。
官吏を辞して、故郷の田園で晴耕雨読の生活を送った陶淵明への憧れを込めて、多くの作家たちにより理想の世界として作品化されました。
煩わしい世を離れ、金色にきらめく麗らかな桃源の世界に、誘われてみませんか。

橋本関雪 ≪武陵桃源図≫ 昭和時代(20世紀)絹本金箔地著色/152.0㎝×340.0㎝(岡崎市美術博物館蔵)
※この作品は、収蔵品展「贅沢な対話」の第2話で展示しておりました。

【収蔵品紹介03】マックス・エルンスト「風景」

  • 1939年/油彩、紙を添付したキャンバス/16.2×22.0㎝

    1939年/油彩、紙を添付したキャンバス/16.2×22.0㎝

作者は偶発的にできた絵具のにじみを眺め、それが何かに見えてくるという着想を得て、そのにじみに加筆を施してこの「実在しない」風景を描きました。これは、私たちがぼんやり雲を眺めるとき、無意識に何かのかたちに見えてくることと同じ現象であり、美術においては、意識の介在なしで制作するオートマティズム(自動書記)と呼ばれる手法です。
マックス・エルンストはシュルレアリスムの画家・彫刻家として、現実離れした奇怪で幻想的な作品を多く制作しました。彼が本作を描いたのは1939年、第二次世界大戦が開戦した年です。制作の背景には、命を脅かす「戦争」という脅威のもと、意識では整理しきれない、通常の思考回路ではエラーが出てしまう異常な社会状況がありました。
コロナウイルスの感染が拡大し、命を脅かす「病」の不安に苛まれているこの数か月、私たちもまた、現実離れした奇妙な日常を過ごしています。閉ざされた「家」から、私たちは意識というカーテン、現実という窓の外に手を伸ばす。その指先に触れるのは、「無意識」や「超現実」なのかもしれません。コロナ下の新しい日常という地点から私たちが眺めているのは、エルンストが描いた「風景」と同じ地平にある現実の向こう側なのではないでしょうか。

マックス・エルンスト「風景」
1939年/油彩、紙を添付したキャンバス/16.2×22.0㎝

【収蔵品紹介02】昭和3年ころの結核予防デーのチラシ

今でこそ結核は縁遠い印象をうける病気ですが、1950年ころまでは10万人あたり死亡者が年150人を超え、「亡国病」とまで呼ばれていたそうです。
それが徹底した健診・予防接種・抗生物質の普及により、急激に感染者数が減少していきました。
それ以前の状況下で出されたこのチラシからは、予防と健康増進に注意がはらわれていたことがうかがえます。
「消毒を完全にせよ」
「迷信にまような」
などは、現在にも通じるところがあるように思います。
新型コロナウイルスに対し今はまだ有効な治療法が見つかっていませんが、いつかきっと乗り越えられる。
このチラシを見たとき、そう思わせてくれました。

〈参考文献〉
森亨「日本の結核流行と対策の100年」(『日本内科学会雑誌』91-1、2002年)

【収蔵品紹介01】浮世絵師・歌川国芳の出世作

歌川国芳は江戸時代末期に活躍した浮世絵師です。
幼いころから画力に評判のあった国芳は10代でデビューしますが、活動当初から20代にかけては絵師としてふるわず不遇の時代を過ごしました。
そんな国芳が一躍脚光を浴びる契機となった出世作が、今回ご紹介する『通俗水滸伝豪傑百八人一個(壹人)』の連作です。

国芳は中国の伝奇『水滸伝』に登場する108人の豪傑の姿を創意工夫によって表現しました。
本作の画面の奥で神妙な面持ちをした老人が豪傑・安道全です。どんな病気も治療できる名医であることから、「神医」のあだ名がついています。
本作に該当する場面は『水滸伝』には見当たりませんが、豪傑たちに数々の治療を施した安道全の手腕をうかがうことのできる作品です。

今こそ神医の力にあやかりたい!
歌川 国芳(うたがわ くによし)
『通俗水滸伝豪傑百八人一個 神醫安道全 母大蟲顧大嫂』
(つうぞくすいこでんごうけつひゃくはちにんのひとり しんいあんどうぜん ぼだいちゅうこだいそう)

文政末~天保前期(1828~33)頃 大判錦絵 岡崎市美術博物館蔵
参考:『歌川国芳 水滸伝の世界』2017年 岡崎市美術博物館